「男の料理教室」71歳が、心の大事件“まさかの覚醒”

先日参加した「男の料理教室」で、私に起きた心の大事件“まさかの覚醒”をしてしまったお話をします。

「男の料理教室」の会場、梅の里センターに入った瞬間、ガーンと衝撃を受けました。

(ちょっと待て……なんだ、この立派な厨房!広い会場にミニキッチンが6基も均等に配置されている。本当に500円会費なのか?おれ、今日、ここで、料理修行をするのか?)

生徒は20名弱のおじさんばかり。皆、還暦60歳を過ぎている模様。

先生方は、「おだわら六彩会」のご婦人方が10名弱。

料理ド素人のおじさんたちを4組のチームに分け、1チーム4人に、二人の先生が教えるという豪華さ。

あいさつの後、本日のメニューがレジメとともに発表されました。

1.大根の葉を使った「菜めし」

2.サバの竜田揚げ

3.切り干し大根ときゅうりのサラダ

4.具だくさんの豚汁

5.デザートの紅茶ゼリー

料理の初めは、サバの竜田揚げから

この日の早朝、早川魚市場に水揚げされたサバを1チーム3本ずつ配布。

まな板の上には、40、50センチはあろうか、ドーン!とサバが3本。

(数え方の匹は生きて泳いでいる魚を数える時だそうだ)

いやもう、本当に大きい。目が光っている。

びっくりサイズに、私は心の中でつぶやいた。

(お前…生きてないよな?目が合った気がする)

先生は満面の笑みで、「これから皆さんでサバを三枚におろします!」

(先生、“三枚におろします”って?おれ71歳、初めて魚を捌くんですよ?)

でも、人生には逃げられない瞬間があるんです。

出刃包丁を手にした瞬間、ズシッ……重い!!でも、やるっきゃない。

覚悟を決めた一刀目。

その瞬間、(え、…魚と心が通じた?)

脳内でなぜか音楽グループ、チューリップの財津和夫さんの曲が流れ始めました。

「わがままは男の罪 それを許さないのは女の罪・・・」

(いや、誰だよ、このBGM、おれの頭の中に流してるの!)

って、おれの心の叫びが同時に聞こえたのです。

でも、不思議なことに──

その一刀で覚悟ができ、心が落ち着きました。大袈裟かな。

(あ…おれ、71歳のおれ、まだ新しい挑戦ができるんだ…)

先生の言われるままに、サバを三枚におろしていく。手が震える。

出刃包丁が思うように動かない。

「ゆっくりで良いのよ。手を切らないようにね」と先生の優しい声。

魚を抑える左手に出刃包丁が当たらないよう気をつけて、サバを三枚におろしました。

(やったー、おれにも出来た。感動、こんなにエキサイティングな経験、何十年ぶりか)

次に、三枚におろした身に残る骨を削ぐ時は、指で骨を確認、包丁の角度が大切、

(ちょっと待て…71歳過ぎても、おれって成長している?)と謎の感動。

続いて豚汁

私が里芋・にんじん・こんにゃくを切ることに。

「にんじん半月切りで〜」と先生に言われた瞬間、千切りくらいしか知らないおれは

(半月切りって!?)と心の声が。

ぽかんと固まっている私に、先生が天使の声で、

「縦に切って、斜めに。食べる人の幸せを想像して」

と言ってくれました。その瞬間、頭の中で、小さな電球がピッと点灯。

(なるほど、食べるときの“ほおばり具合”をイメージすれば良いのか)

と気づかされました。

(先生の言葉、なんだ…この優しさ…心にしみる…)

野菜を切りながら、思わず涙腺がゆるみそうでした。

豚汁、完成後、豚汁を食べたら…心の声が言いました。

(おい、おれのにんじん…美味すぎないか?こんにゃく食べやすい形に切れてる。里芋、美味い。大きさもバッチリ。ちょっと感動で泣きそうなんだけど!?)

切り干し大根のサラダは衝撃的。

(こんなに美味しくなるなら、世界はもっとサラダを推すべきだろ!!)

カニカマを細くほぐし、キュウリも薄く切り、ボールに入れるとチームメイトが、かんたん酢とマヨネーズを混ぜたドレッシングを加えて丁寧に和えました。

サラダの盛り付けでは、

「真ん中を高くすると美味しそうになりますよ」

と先生が言いながら一皿、盛り付けると、思わず、私は

「はいっ!!」と明るく大きくはっきりと返事。

(おれ、誰?素直すぎる71歳)プチ感動。

三枚におろしたサバを竜田揚げ用に切った時も、

「ゆっくりで良いのよ、ケガをしないようにね」

との先生の言葉に素直な返事がスッと出て、自分の変化に驚き、心の中で(驚き、桃ノ木、山椒の木)なんて呟いていたのです。

この瞬間、私は悟りました。

料理とは、“人の声に素直になる修行”である。

料理が完成し、お昼12時。

サイレンが鳴り全員で「いただきます」の声を発し食事を始めました。

自分たちで作った料理は、格別に美味しい、チームメイトの眼を覗いて確信しました。

初対面なのに、チームメイトは、すでに仲間。

(料理って…人間同士を煮込んで“仲間”に変える魔法なんだな…)

味わいながら、ふと思いました。

料理は、素材だけを煮るのではない。人間関係も煮込む。

熱で溶け、香りが広がり、距離が縮まる。料理ってすごい。

後片付けは皆で協力して行いましたが、私は洗い物に徹しました。

日頃、自宅で一部の洗い物をしていたお陰で、スイスイ(水水)洗えました。

食事を終え洗い物を終え、「男の料理教室」が終了しての感想タイム。

私は言いました。

「500円で、この体験…大感動しました。お得すぎます!」

会場に、どっと笑いが起きました。

「5,000円でも安いと思います!」

会場は、さらに大きな笑いが起き、拍手も出ました。

感謝の言葉を述べて終わりました。

「男の料理教室」の帰り道、静かに心を打った瞬間が訪れました。

42年もの長い間、3万食以上の食事を作ってくれた妻の顔が浮かんだのです。

家族のために、黙って、優しく、飽きもせず、愛情を込めて、

毎日毎日食事を作ってくれました。お弁当も。

これからも作ってくれるでしょう。

そのことを思った瞬間、

(おれは……どれだけ妻の作る食事に支えられて来たんだろうか)

と胸が熱くなりました。

男の料理教室は、ワクワクドキドキで、楽しくエキサイティングで、

皆と笑いっぱなしでしたが、最後に残ったのは──

人が人を想う、その優しさが料理だと確信しました。

料理とは、笑って泣いて、最後にやさしい気持ちになれる

“料理が人生の一駒一駒をつむいでいくもの”なのだと感じました。

出来上がった料理を一緒に楽しむことで、家族や友人、仕事仲間の歴史を紡いでいくのではないかと思った1日でした。

(これからも男の料理教室に通うぞ、そして家族と友人と仕事仲間にふるまうぞ、……

迷惑でなければ)などと決意したのでした。